はじめに
2026年9月18日金曜日、弁理士試験論文式試験の合格発表が特許庁のサイトに掲示されました。
今年度は、論文式試験 (必須科目) の受験者数が804人 (選択科目は180人) のところ、合格者は201人で、合格率は25.0%となりました。合格率と合格者数を見ると、例年通りの結果と考えられます。
※ 参考:令和8年度弁理士試験統計 (特許庁)
しかし、今年度は合格点が54.5点と記載されていました。これまで54点で推移していた合格点が、今年は54.5点となりました。0.5点合格点が上がったことになります。
このことは何を意味するのでしょうか? 今回は、この合格点が今年は0.5点上がったことの意味を考察してみます。
考察
今年の論文式試験は難易度で見ると、特実は例年通りで普通、意匠が難、商標がやや難、といった印象でした。特に、意匠の変化球と商標の判例が難しい印象を与えたと思われます。
※ 参考記事:「令和8年度 弁理士論文式試験 (必須科目) を解いてみた感想と考察」
合格点は例年よりも0.5点上がっているということは、「全体的に多くの人が高得点を取っていたのだろうか」、「難しかったのに他の人がみんな高得点取れていたのだろうか」などと考えてしまうかもしれません。
しかし、合格者数と合格率を見ると、例年通りの数字となっています。このため、合格点が0.5点上がったという事実だけから、今年の受験生全体の出来が例年以上に良かったとは判断できないと考えます。
先のブログで考察したように、論文式試験の採点は「標準偏差による調整後の各科目の得点の平均(配点比率を勘案して計算)」とされています。(特許庁のサイトより)
このため、調整後の得点は、単純な素点だけではなく、受験者全体の平均点や標準偏差にも左右されると考えられます。
では、この合格点が54.5点と、例年より0.5点上がったことは何を意味しているでしょうか?
ここでは説明を単純化するため、先の記事と同様に、調整後得点を一般的な偏差値に近いものと仮定して考えます。
偏差値54以上ということは、上位34.5%以上に相当することになります。今年は受験者が804人のため、277人に相当します。
偏差値が54.5以上となると、上位32.6%以上に相当することになります。このため、全体が804人の場合、262人に相当します。すなわち、54点の場合より15人少なくなります。
この試算を見ると、合格点が54点から54.5点に変わることで、必須科目の合格圏に入る人数には十数人程度の差が生じ得ることが分かります。

図1 正規分布における偏差値の分布 (再掲)
最終的な論文式試験の合格には選択科目の合格も必要となるため、選択科目を含めた合格者数との関係も一つの要因として考えられます。
ただし、54.5点とされた具体的な理由は公表されていないため、ここから先は推測となります。
では、この試算上の約15人という差に、どのような背景が考えられるでしょうか?
令和8年度の選択科目の受験者数を見ると、180人となっています。令和7年度は160人で、それ以前は140人前後で推移していました。つまり、今年は選択科目の受験者が20人程度多かったことになります。
なお、選択科目は必須科目とは異なり、素点で評価されます。絶対評価です。このため、今回の0.5点の違いについては、必須科目と選択科目で評価方法が異なることや、選択科目受験者数が増えていることも、背景の一つとして考えられるかもしれません。
結論
今年は難しいと感じられる問題もありました。その一方で、必須科目の合格点は例年の54点から54.5点へと上昇しています。
この数字だけを見ると、「今年は受験生全体の出来が良かったのではないか」と感じるかもしれません。
しかし、必須科目が相対評価であるならば、合格点は単純な試験の難易度だけで決まるものではありません。平均点や得点のばらつき、54点前後にどの程度受験者が集中していたかなどによっても変わります。
したがって、54.5点という合格点から、「今年の問題は易しかった」「受験生が例年以上によくできていた」と直ちに判断することはできないと考えます。
今年は合格点だけを見ると例年より0.5点高くなりました。しかし、合格者数や合格率に大きな変化はなく、出題内容を見ても試験全体が易化したとは考えにくいように思います。
したがって、54.5点という数字は、試験の難易度が大きく変化したというより、その年の得点分布などによって生じた変動と見る方が自然であると考えられます。
「難しいと感じたのに合格点が上がった」という結果だけを見て、「自分だけができなかったのではないか」と必要以上に考える必要はないと思います。
合格点は、単純な試験の難易度だけではなく、その年の受験生全体の得点分布や評価方法の中で決まる数字だからです。
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