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弁理士試験はCBT化されるのか? ― 導入されるとしたらどう変わる?

Benrishi-CBT 弁理士試験

※ 本記事は、2026年7月14日付の日本経済新聞朝刊に掲載された「司法も医師もペンなし試験」という記事をもとに、筆者が個人的に考察したものです。特許庁その他の公的機関による公式見解ではありません

※ 2026年7月14日現在、弁理士試験のCBT化について、特許庁から公式な発表はありません。

はじめに

 2026年7月14日火曜日の日本経済新聞朝刊に、「司法も医師もペンなし試験」と題して、司法試験や医師国家試験のCBT化を取り上げた記事が掲載されていました。

 海外では、国家試験や資格試験にコンピューターを利用する動きが進んでいます。日本でも、政府によるデジタル化の推進を背景として、国家試験をCBT化する動きが広がりつつあります。

 司法試験については、2026年から短答式試験と論文式試験の双方にCBT方式が導入されます。また、司法試験予備試験についても、2026年は論文式試験にCBT方式が導入されます。

 司法試験と弁理士試験は、ともに法律の知識と論述力を問う国家試験です。そのため、司法試験のCBT化が定着すれば、将来、弁理士試験についてもCBT化が検討される可能性があるのではないか、と考えました。

 そこで今回は、CBTとはどのような試験方式なのかを確認したうえで、弁理士試験が将来CBT化される可能性と、実際に導入された場合に試験がどのように変わるのかを考察します。

CBTとは

 CBTとは、「Computer Based Testing」の略で、紙の問題用紙や答案用紙ではなく、パソコンなどのコンピューターを使用して受験する試験方式です。

 CBTというと、自宅からインターネットを通じて受験する試験を想像するかもしれません。しかし、CBTは必ずしも自宅で受験するオンライン試験を意味するものではありません。指定された試験会場に出向き、会場に設置されたパソコンを使用して受験する方式もCBTに含まれます。

 現在、日本では、ITパスポート試験、日商簿記検定、ファイナンシャル・プランニング技能検定、英検S-CBTなど、さまざまな試験にCBT方式が導入されています。

 CBTには、問題バンクに蓄積された多数の問題から、受験者ごとに問題が選ばれる方式があります。一方、司法試験のように、決められた試験日に受験者が同一の問題を解く試験を、紙ではなくコンピューター上で実施する方式もあります。

 したがって、CBT化されたからといって、必ずしも試験を毎週受けられるようになったり、その場で合否が判明したりするわけではありません。試験の実施方法は、それぞれの制度によって異なります

筆者が受験した日商簿記検定のCBT試験

 筆者は、日商簿記検定の3級と2級をCBT方式で受験しました。

 試験会場には、近隣のパソコン教室などが指定されており、空席があれば比較的柔軟に受験日時を選ぶことができます。

 試験会場では、電卓以外の荷物をロッカーに預け、会場に設置されたパソコンを使用して受験しました。全員が合図とともに一斉に開始するのではなく、受付や本人確認を終え、準備ができた受験者から試験を開始します。

 画面上の「試験開始」ボタンを押すと問題が表示され、残り時間も画面上に示されます。試験時間が終了するか、自分で「試験終了」の操作をすると、その場で採点され、点数と合否が表示されました。

 紙の問題用紙に書き込むことはできませんが、簿記検定では計算用の紙が渡されるため、途中の計算やメモを書くことができます。

 CBTには、近隣の会場で受験しやすく、試験日を選びやすいというメリットがあります。その一方で、問題文に直接線を引いたり、選択肢に印を付けたりできないため、紙の問題に慣れている人は、画面上で問題を読むことに戸惑う可能性があります。

CBT化のメリットと課題

 CBT化には、いくつかのメリットが考えられます。

 まず、大量の問題用紙や答案用紙を印刷し、各試験会場に配送する必要が少なくなります。また、答案の回収や管理に伴う事務負担も軽減できる可能性があります。

 論文式試験では、手書きではなくキーボードで入力できるため、長時間の筆記による手の疲労を軽減できます。文字の読みやすさによって採点に影響が生じる問題も小さくなるでしょう。

 答案を電子データとして管理できれば、採点者への答案の割当てや、採点結果の集計も効率化できる可能性があります。

 一方、CBT化には課題もあります。

 試験中にコンピューターやネットワークに不具合が発生した場合、受験機会をどのように保障するかという問題があります。また、タイピングの速さやパソコン操作への慣れが、法律の知識や論述力とは別の形で得点に影響する可能性もあります。

 問題文と法文集を一つの画面上で行き来する場合には、紙の試験よりも全体を見渡しにくくなることがあります。特に、長い事例問題を読み、複数の条文を参照しながら答案を作成する試験では、画面の構成や検索機能が受験しやすさを大きく左右します。

さらに、試験問題を持ち帰れない方式になれば、受験者や予備校が試験終了後に問題を検討することが難しくなります。ただし、CBTであっても試験問題を後日公表することは可能であり、この点も制度設計によって異なります。

弁理士試験にCBTが導入される可能性はあるのか

 2026年7月14日現在、特許庁から、弁理士試験をCBT化するという発表はありません

 したがって、現時点で「弁理士試験もCBT化される」と断定することはできません。当面は、従来どおりの紙による試験を前提として対策するのが妥当です。

 もっとも、将来的な可能性がまったくないとも言い切れません。

 司法試験では、短答式試験だけでなく、長文の答案を作成する論文式試験にもCBT方式が導入されます。法律系の国家試験でも、論文式試験をコンピューター上で実施できることが示されれば、弁理士試験についても検討対象となる可能性があります。

 また、特許庁をはじめとする行政手続ではデジタル化が進められています。特許、意匠、商標などの出願手続がオンラインで行われる時代に、弁理士となるための試験だけが将来にわたって紙のままであるとは限りません。

 米国では、特許庁に対する手続を代理する資格を得るための登録試験が、試験会場のコンピューターを利用する方式で通年実施されています。ただし、米国の登録試験は選択式問題を中心とする試験であり、日本の弁理士試験とは、受験資格、試験科目、試験段階などが異なります。そのため、米国の制度をそのまま日本に導入できるわけではありません。

 仮に弁理士試験のCBT化が検討されるとしても、システムの整備、試験会場の確保、障害発生時の対応、法文の表示方法、受験者への周知、試行試験の実施などが必要です。

 このため、公式発表がない現段階で、具体的な導入時期を予測することは困難です。

弁理士試験がCBT化されたらどうなるのか

 弁理士試験には、短答式試験、論文式試験、口述試験があります。このうち、CBT化の可能性や課題は、それぞれ異なると考えられます。

(1)短答式試験

 短答式試験は、五肢択一式の問題に解答する試験であるため、技術的には最もCBT化しやすいと考えられます。

 画面上に問題と選択肢を表示し、正しい選択肢をクリックする方式で実施できます。採点も自動化できるため、試験結果を現在より早く発表できる可能性があります。

 もっとも、弁理士試験の短答式試験では、問題文の条件や各枝の細かな表現に線を引きながら検討する受験者が少なくありません。画面上で重要箇所にマーカーを付ける機能や、後で見直す問題に印を付ける機能が必要になるでしょう。

 また、試験問題を受験者ごとに変えるのか、現在と同様に全員が同じ問題を解くのかという問題もあります。弁理士試験では、問題ごとの難易度や法改正への対応が重要であるため、単純に問題バンク方式へ移行することには慎重な検討が必要だと思われます。

(2)論文式試験

 論文式試験も、司法試験での運用が定着すれば、技術的にはCBT化が可能と考えられます。

 現在の弁理士論文式試験では、限られた答案用紙の中に、論点、条文上の要件、当てはめ、結論を手書きでまとめます。CBT化された場合には、答案をキーボードで入力することになるでしょう。

 文字の読みやすさによる差がなくなり、長時間の筆記による手の負担が軽減される点は、大きなメリットです。答案の途中への文章の挿入や修正も容易になります。

 その一方で、文章を簡単に追加できるため、答案が必要以上に長くなる可能性があります。現在の答案用紙には行数という物理的な制限がありますが、CBT化する場合には、文字数制限を設けるのか、入力欄の大きさを制限するのかという制度設計が必要になります。

 また、弁理士論文式試験では法文集を参照できます。CBT化された場合に、法文集を紙で配布するのか、画面上で閲覧するのか、条文検索機能を設けるのかは、試験の難易度に大きく影響します。

 条文を自由にキーワード検索できるようになれば、現在とは異なる能力が問われる試験になる可能性があります。反対に、画面上で法令を探しにくい設計になれば、受験者に過度の負担が生じるおそれがあります。

 選択科目についても、数式、化学式、構造式、図面などをどのように入力させるのかという課題があります。法律科目だけでなく、理工系科目を含む弁理士試験特有の検討が必要でしょう。

(3)口述試験

 口述試験は、試験委員と受験者が対面し、質問と回答を繰り返しながら、条文の理解や応答能力を確認する試験です。

 そのため、短答式試験や論文式試験とは性質が異なり、直ちにCBT化されるとは考えにくいでしょう。

 オンライン会議システムを利用した遠隔試験は技術的には可能ですが、通信障害、本人確認、不正防止、受験環境の公平性など、多くの問題があります。

 したがって、仮に弁理士試験の一部がCBT化されたとしても、口述試験については、当面、対面方式が維持される可能性が高いのではないかと思います。

受験対策は変わるのか

 短答式試験では、紙の問題を解くだけでなく、画面上で問題を読み、重要な箇所を見落とさずに判断する練習が必要になります。

 論文式試験では、答案構成を紙にメモしてから入力するのか、画面上で直接構成を作るのかなど、自分に合った方法を確立する必要があります。タイピングの正確さや、入力した答案を画面上で見直す力も求められるでしょう。

 もっとも、試験方式が変わったとしても、問われる中心が、条文、判例、制度趣旨、論点の理解であることに変わりはありません

 現時点では弁理士試験のCBT化について公式発表がないため、受験生が今から特別なCBT対策をする必要はないでしょう。まずは、現在の試験方式に合わせて、短答式問題を正確に解き、論文答案を時間内に作成する力を身に付けることが優先されます。

結び

 司法試験や医師国家試験にもCBT化の流れが及んでいることを知り、筆者も驚きました。

 デジタル化が社会全体で進む中、これまで紙と手書きを前提としてきた難関国家試験も、少しずつ姿を変えようとしています。司法試験におけるCBTの運用が定着すれば、弁理士試験をはじめとする他の国家資格についても、CBT化の議論が広がる可能性があります。

 弁理士試験の場合、短答式試験は比較的CBT化しやすい一方、論文式試験では法文集の扱いや文字数制限、選択科目における数式・図面の入力など、固有の課題があります。口述試験については、対面方式を維持する合理性もあります。

 CBT化は、単に答案用紙をパソコンの画面に置き換えるだけのものではありません。試験でどのような能力を測るのか、受験者間の公平性をどのように確保するのかを含め、試験制度そのものを見直す問題でもあります。

 現時点では、弁理士試験がCBT化されるという公式発表はありません。しかし、司法試験のCBT化が実際に始まった今、弁理士試験の将来について考えてみることにも意味があるのではないでしょうか。

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