はじめに
弁理士試験・論文式試験の合格発表は、例年9月下旬に行われます。合格発表後、数日すると論文式試験の結果が郵送されてきます。
合格者には、「合格通知」と「論文式筆記試験科目免除資格通知」 (以下、免除通知) 、口述式試験の案内が送付されます。免除通知には論文式試験の得点が科目ごとに記載されています。
残念ながら合格でなかった場合には、「論文式筆記試験の結果について」の通知が送付されます。この通知に、論文式試験の得点が科目ごとに記載されています。
この、論文式試験 (必須科目) の得点は、何を示しているのでしょうか。今回は、この得点について考察してみます。
論文式試験 (必須科目) の採点について
特許庁のサイトによると、科目合格基準の項目に、「標準偏差による調整後の各科目の得点の平均(配点比率を勘案して計算)が、54点を基準として口述試験を適正に行う視点から工業所有権審議会が相当と認めた得点以上であること。ただし、47点未満の得点の科目が一つもないこと。」と記載されています。
つまり、合格基準点は54点です。しかし、一科目でも47点未満の得点の科目があると、不合格となってしまいます。いわゆる、足切りというものです。
なお、特許・実用新案は2問出題され、配点も意匠・商標の2倍となっているため、科目別得点は200点満点となります。したがって、47点という科目別基準も、特許・実用新案については配点比率を考慮して扱われます。
この、54点や47点というのは、いわゆる点数 (粗点) ではなくて偏差値のようなものに相当すると考えられます。上記の特許庁の採点基準に、「標準偏差による調整後の各科目の得点の平均(配点比率を勘案して計算)」とあるためです。標準偏差を用いて調整された得点であるため、本稿では便宜上、平均50・標準偏差10の一般的な偏差値に近いものと仮定して考えてみます。
ここで、この点数が偏差値であると仮定した場合に、54点以上や47点未満はどのような状態を指すのかを考察してみます。
統計的考察
特許庁の統計情報によると、論文式試験 (必須科目) の受験者は、令和8年度で804人となっています。ここでは考察を単純化するため、得点の分布が正規分布に近いものと仮定します。
得点の分布が正規分布に従っている場合、正規分布表から偏差値と相対度数の関係が求められます。この分布を以下の図に示します。

図1 正規分布における偏差値の分布
正規分布表から偏差値54以上の分布を求めると、上位34.5%に相当する結果になりました。これは、上位約1/3に相当します。令和8年度の例でみると、受験者数が804人のため、偏差値54以上は上位277人に相当します。
偏差値47は、正規分布を仮定すると上位約61.8%に位置します。したがって、47点未満を足切りとする基準は、大まかにいえば「各科目で下位4割程度に入らないこと」を求める基準と考えることができます。
以上の結果から、論文式試験 (必須科目) では、特実・意匠・商標を平均して上位1/3以内に入りつつ、1科目でも下位4割に入らないことが条件とされていると考えられます。
実際の論文式試験の合格率も例年25%前後で推移しています。総合基準に加えて科目別の足切りが設けられていることを考えると、「全体として上位3分の1程度に入り、かつ極端に不得意な科目を作らない」というイメージは、実際の合格率とも大きく矛盾しないと考えられます。
結び
以上から、論文式試験では、突出して高い得点を取ること以上に、各科目で大きく崩れないことが重要であると考えられます。
問題で問われていること(題意)を正確に把握し、基本的な論点を漏らさず、条文に沿って答案を構成する。そのうえで、特定の科目や問題で大きな失点をしないことが、合格に近づくためのポイントといえそうです。
難しい論点が出題された場合には、他の受験生も十分に書けない可能性があります。そのような問題で無理に差を付けようとするより、基本的な論点を確実に拾うことの方が重要なのかもしれません。
したがって、論文式試験の対策としては、過去問を中心に題意を把握して論点を整理する練習を行いながら、条文を確認して基本を固めていくことが重要であると考えられます。
なお、今回の考察には、高校数学で学ぶ正規分布や標準偏差の考え方を用いました。
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