はじめに
これまで、特許制度が王権の裁量から法の支配へと変化していく過程を見てきました。
しかし同じ時代、技術の管理や伝承の仕組みもまた、大きく変わろうとしていました。それまで技術は、「ギルド」と呼ばれる商工業者の団体が、徒弟制度のもとで管理していました。
では、このギルドとはいったいどのような制度だったのでしょうか。今回は、ギルドの歴史について見ていきます。
ギルドの歴史
中世ヨーロッパにおける都市の形成
11世紀頃になると、ヨーロッパではヴァイキングやイスラム勢力など外敵との大規模な戦乱が次第に収まり、社会は比較的安定した時代に入っていきました。
その結果、土地の開墾や農業技術の発達によって農業生産が増え、社会全体が徐々に豊かになっていきました。
社会が豊かになると、余剰となった農産物を売買する経済活動が活発になり、各地で定期市が開かれるようになりました。また、農村から都市に移住し、商業や手工業に従事する人々も増えていきました。
こうして経済活動が活性化し、商業が復活することで、中世都市が誕生しました。都市が発展すると、各地を移動していた商人の中には、特定の都市に定住して活動する者も現れるようになりました。
商人ギルドの登場
11世紀当時の商人は、遠方から商品を仕入れるために長い旅をする必要がありました。しかし、当時の旅はまだ危険が多く、盗賊などから身を守るため、商人は武装した商隊(キャラバン)を組んで移動していました。
こうした状況の中で、商人たちは互いに協力し合うための団体を形成するようになります。これが、商人ギルドの始まりです。
なお、「ギルド(guild)」という言葉は、「金銭を支払う」「寄付・貢献」を意味するゲルマン語系の言葉に由来するとされています。
同職ギルドの分立
12世紀から13世紀にかけて都市が発展すると、商人から材料を仕入れて製品を作る手工業者(職人)も増えてきました。
当時の都市はまだ領主の支配下にあり、手工業者は重い税を課されるなど不安定な立場に置かれていました。こうした中で、手工業者たちは同じ職業の者同士で団結し、互いの利益を守ろうとするようになります。
その結果、職種ごとに組織された「同職ギルド」が形成されました。
やがて都市が発展すると、ギルドは経済的な力を持つようになり、都市の自治や市政にも関与する存在へと成長していきました。
ギルドの役割
ギルドの役割は大きく三つあります。
市場の独占と権益の保護
外部からの参入を防ぎ、自分たちの営業権を守ることでした。具体的には、ギルドに所属していない者がその都市で営業することを禁止しました。これをツンフト強制といいます。
また、仲間内での過度な競争を避けるため、価格や品質、労働時間などを細かく規定し管理しました。こうすることで、構成員が安定して生活できるようにしていました。
相互扶助
病気や事故などで働けなくなった場合に、仲間同士で経済的に助け合う仕組みが整えられていました。
技術の継承と教育
いわゆる徒弟制度です。質の高い製品を維持するため、親方が徒弟を受け入れ、数年かけて技術を伝えていきました。
このようにギルドは、同業者の生活を守るとともに、商品の品質を維持し、技術を次世代へと伝える役割を担っていました。
結び
このように、中世ヨーロッパではギルドが技術と市場を管理する重要な役割を担っていました。
しかし、17世紀以降、社会の近代化が進むと、こうしたギルドによる独占的な仕組みは次第に揺らぎ始めます。そして、その大きな転換点となったのが産業革命でした。
ギルドが「仲間の内部で技術を守る仕組み」だったのに対し、特許制度は「発明を社会に公開し、その代わりに一定期間の独占を認める仕組み」へと発展していきました。
次回は、いよいよ産業革命の時代に入り、技術革新と特許制度の関係について見ていきます。
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