iPS細胞特許の延長登録の権利範囲 ― 延長後の権利範囲はどうなる?

知財トピック

はじめに

 2026年9月25日の日本経済新聞朝刊に「iPS細胞 特許延長決定 ― 京大が管理 応用薬の開発進展受け」という記事が掲載されていました。

 この日経新聞の記事によると、「京都大学がiPS細胞に関する基本特許を延長する申請が日本の特許庁から認められたと発表した」「延長後の期限は2031年12月6日まで」とあります。これにより、「特許料収入の維持につながることができる」とされています。

 また、京都大学 iPS細胞研究所 CiRA (サイラ) のサイトによると、2026年9月24日付のニュースで、「iPS細胞の基本特許の存続期間延長が決定 ― 知的財産を通じてiPS細胞医療応用の社会実装を示す―」という記事が掲載されております。

 このCiRAの記事によると、「iPS細胞の基本特許について、日本特許庁に申請していた存続期間の延長登録出願が認められ、2026年9月16日に登録査定謄本を受領しました。」とあります。

 すなわち、延長登録の出願の審査が完了し、正式に延長登録がなされたということになります。

 ところで、このiPS細胞の特許の延長登録の権利範囲は、これまでのiPS細胞の特許権の権利範囲と同じなのでしょうか?

 今回は、存続期間が延長された場合の特許権の効力について見ていきます。

特許権の延長登録とは

 医薬品や再生医療等製品の分野では、特許を持っていても、国の承認が下りるまでは実際に製品として使えないことがあります。その「国の承認を待っていた期間」を、一定の範囲で特許期間の後ろに足してもらう制度が、特許権の存続期間延長登録制度です。

 なお、当サイトのブログ「iPS細胞の特許はなぜ延長できるのか? ― 再生医療と特許権の延長登録」で、特許権の延長登録制度について記載しました。延長登録制度の概要について、ご参考になれば幸いです。

延長登録された特許権の効力の範囲

 特許法第68条の2によると、「特許法第67条第4項の規定により同条第1項に規定する存続期間が延長された場合の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となった第67条第4項の政令で定める処分の対象となった物についての当該特許発明の実施以外の行為には及ばない。」とされています。

 つまり、医薬品等の分野で安全性の確保等の承認等にかかった期間について、特許権を延長した場合、その特許権の効力は、その承認の対象となった物や、承認において定められた用途との関係で限定されます。従来の特許権の全範囲について延長登録が認められるというわけではありません。

 iPS細胞の場合、この承認を得た範囲に該当するものが、iPS細胞を用いた再生医療等製品である住友ファーマ株式会社のパーキンソン病治療製品「アムシェプリ」と、クオリプス株式会社の重症心不全治療製品「リハート」です。

 したがって、今回の延長期間中の特許権の効力は、「アムシェプリ」と「リハート」の製造販売承認を理由として認められた範囲について及ぶことになります。

 元のiPS細胞基本特許の権利範囲すべてが、そのまま2031年12月6日まで延長されるわけではありません。延長後の特許権の具体的な効力範囲は、承認の対象となった「物」や「用途」と、特許発明との関係によって判断されることになります。

結び

 今回のiPS細胞の事例は、特許法第67条4項の延長登録の良い例になると思います。「なぜ、延長登録が必要だったのか」、「延長登録された特許権の範囲はどこまでなのか」、ということがわかります。

 この延長登録では、延長期間中の特許権の効力は、国の承認の対象となった物や用途との関係で限定されます。承認のために特許発明を実施できなかった範囲を超えて、元の特許権全体の効力を延長する制度ではありません。

 このように効力の範囲を限定することで、処分によって実施できなかった範囲を超えて特許権の効力が延長されることを避け、特許権者と第三者との利益の調整が図られています。

 京都大学は、この延長登録によって「研究成果を適切に保護しながら、利用許諾を通じ多くの企業や研究機関による活用を促し、医療応用につなげることを目指す」とコメントしています。

 まさに、特許制度の目的である「発明の保護と利用を図ることにより、産業の発達に寄与すること」につながっていると思われます。

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