はじめに
これまで、15世紀のベネチアと英国でそれぞれ誕生した特許制度。英国では18世紀までの約300年の間に王権から法の支配の下での特許制度へと形を変えていきました。
それは、特許が「王の裁量」で与えられる専売権ではなく、「社会契約」のもとで認められる「財産権」へと変貌していく歩みでした。
やがて、この特許制度が産業革命を支えるようになっていきます。
今回は、これまでの振り返りとして、特許制度の誕生から「王権」を経て、「法の支配下での特許制度」への変遷を見ていきます。
特許制度の誕生 (15世紀)
15世紀に、特許制度はベネチアと英国で別々に誕生しました。
1474年、ベネチアで「発明者条例」が制定されました。これは、世界で初めて成文化された特許制度と言われています。
15世紀中頃、英国でヘンリー6世が特許制度を創設し、1449年に初の特許が付与されました。これが、英国における発明特許の最古の記録とされています。
なお、この頃の日本は室町時代中期でした。
国王による特許濫発と専売条例 (1624年)
エリザベス1世による特許濫発と黄金演説 (1601年)
16世紀後半のエリザベス1世の時代、国王の財政政策として発明以外にも塩や石鹸、トランプなどの日用品にも特許として専売権を与えました。
これにより物価高騰などの経済混乱が生じました。そこで、エリザベス1世は黄金演説 (1601年) で国民の福祉を最優先する姿勢を示しました。
ダーシー対アレン事件 (1602年)
日用品に対しての、王権による特許が無効とされる司法判断が示された事件です。これは、司法権が王権にブレーキを掛けた歴史的瞬間でした。
チャールズ1世らの特許濫発と専売条例 (1624年)
エリザベス1世が亡くなった後も、国王となったスチュアート朝のジェームズ1世とその子チャールズ1世は、王権神授説を掲げ、特許濫発を続けました。
議会は濫発される専売を制限すべく、1624年に専売条例を制定しました。
それでもチャールズ1世の特許濫発は収まらず、議会との対立は深まり、1642年の清教徒革命へつながります。
なお、日本は江戸幕府が開かれ、幕藩体制が成立する時期でした。
名誉革命後の特許制度
1688年、名誉革命により王権は議会によって制限されました。これにより、特許制度も「王の裁量」ではなく、法の支配の下、専売条例に従って厳格に運用されることとなりました。すなわち、透明性を高めるため、法的な手続に従って行われるようになりました。
名誉革命はジョン・ロックの「統治二論」によって理論的に正当化されました。このような思想の広がりの中で、特許制度も「社会契約」に基づく制度として理解されるようになり、特許権は「財産権」としての性格を強めていきました。
明細書の登場
ナズミスの特許 (1711年)
特許申請が増えるにつれ、侵害訴訟も増加していきました。侵害かどうかを判断するためには特許の権利範囲を明確にする必要がありました。
そこで、特許の付与の条件として、発明者に「発明の内容を詳細に記述すること」を求めるようになりました。明細書の登場です。
これにより、「発明の公開をもって社会に貢献する」という社会契約に基づいた特許制度という考え方が実現しました。
ジェームズ事件 (1752年)
当時は、特許の有効性については依然として国王の諮問機関である枢密院が行っていました。
ジェームズ事件において、特許の有効性についても裁判所で判断すべき、という判決が示されました。これにより、特許は「王の特権」から「社会契約」への実質的な転換が実現しました。
リアード対ジョンソン事件 (1778年)
明細書における「発明の詳細」の基準が示された事件です。明細書は「その分野の熟練した技術者が再現できる」程度に詳細に記載することが求められました。
これは、「再現できない特許は社会的知識とはなり得ない」、すなわち、特許が「知識を社会に蓄積させる制度」であることを明確にしました。
この基準は、現在の特許法36条4項1号にも反映されています。
結び
こうしてイングランドでは、王の恩恵ではなく、法の下で発明を保護する特許制度が整いつつありました。しかし、この制度は、まだ完成したものではありませんでした。
18世紀に入ると、この制度の上で新しい技術が次々と生まれ、やがて産業革命と呼ばれる巨大な変化へとつながっていきます。その最初の発明の一つが、1733年にジョン・ケイが考案した「飛び杼」でした。
更に、18世紀後半には、ある技術者が蒸気機関の改良に取り組んでいました。その名はジェームズ・ワット。彼の発明は、やがて世界を変えることになります。
知財の歴史ブログを公開しています
ベネチアでの特許制度の誕生からこれまでの知財の歴史について、こちらで公開しています。
知財に興味を持った方へ
La Bussola IP Office では、知財の勉強方法、資格取得、キャリアについてのご相談も受け付けています。
知的財産をこれから学んでみたい方、弁理士試験などの資格取得を考えている方、知財を仕事やキャリアに活かしたい方は、お気軽にご相談ください。

