はじめに
J-PlatPatを見ていると、JR東日本のE131系電車が意匠登録を受けているのを見ることができます。各路線に応じたバリエーションも、それぞれ意匠登録を受けていることがわかります。
これらのバリエーションは、一見するとすべて類似しているために関連意匠として意匠登録出願をしているのかと思いきや、実際はそうではないようです。
今回は、E131系電車に見る意匠の類否関係を見ていきます。
なお、鉄道車両の意匠登録については、「新たな夜行特急「ルナ・アズール」に見る意匠登録の世界」「LCD案内表示器の画像も意匠登録される? ― 画面デザインと意匠法」にも記載していますため、ご参考にして頂ければ幸いです。
E131系とは
E131系電車は、関東甲信越地方のローカル輸送を担うべく、短い編成でワンマン運転に対応した車両です。2020年に製造が開始され、2021年3月に房総地区用として0番台に区分される車両がデビューしました。
続いて、相模線用として500番台に区分される車両が2021年11月に、栃木県内の東北本線 (宇都宮線)・日光線用として600番台に区分される車両が2022年3月デビューしました。
さらに、2023年12月から鶴見線用の1000番台が、2025年12月1日に仙石線用の800番台がデビューしました。2026年秋には中央本線・長野地区用に200番台がデビューします。
これらの車両は、路線に応じ、カラーリングだけでなく、前面のドットパターンを用いた装飾、前面貫通扉の有無、車体の幅など、細かい仕様の差異が見られます。
このように、E131系は6種類のバリエーションを持つことになります。
意匠の類似とは
意匠登録を受けると、意匠権者は、「業として登録意匠およびこれに類似する意匠を実施する権利を専有」します (意匠法第23条)。
また、意匠法第3条1項3号には「意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠等に類似する意匠は意匠登録を受けることができない」、意匠法第9条1項には「同一又は類似の意匠について異なった日に二以上の意匠登録出願があったときは、最先の意匠登録出願人のみが意匠登録を受けることができる」と規定されています。
このため、意匠登録前に公開された意匠や、すでに出願・登録された意匠と同一の意匠だけでなく、類似している意匠も意匠登録を受けられません。
これは、原則として、自分自身が先に公開した意匠や出願した意匠であっても、後の意匠の登録に影響する場合があります。このような場合に、自己の先願意匠と類似する意匠について一定の要件のもとで登録を可能とする制度が、関連意匠制度です。
ここで、意匠の類否は、物品と形態の2つの要素を組み合わせて判断します。E131系の例では物品は「旅客車」で同一であるため、形態の類否がポイントとなります。
形態の類否は、「需要者の視覚を通じて起こさせる美感」を基準に判断されます。需要者とは、取引者や消費者です。したがって、意匠の類否は創作者の主観で判断するのではなく、需要者が見て感じる美感を基準に判断することになります。
E131系のバージョンごとの類否
E131系には6つのバージョンがあります。それぞれについて意匠の類否がどのように判断されたか見ていきます。
0番台 (房総地区用) (意匠登録第1679232号)

図1 E131系0番台 (房総地区用)
0番台は、房総地区用 (成田線・鹿島線の成田~鹿島神宮間、内房線・外房線の上総一ノ宮~安房鴨川~木更津間) のオリジナルの形態です。丸みを帯びた幅広の車体に、白い外縁に黒を基調としたマスク、中央の貫通扉と、房総の菜の花と海をイメージした黄色と水色のドットパターンが特徴的です。
黄色と水色は対照的な色相 (色味) で明度も高めであるため、色のコントラストがある中でも軽快で爽やかな印象を与えます。
こちらは、2020年3月2日に意匠登録出願がされ、同年5月12日にプレスリリースで発表、2021年1月26日に意匠登録、同年2月15日に意匠公報発行となっています。
2027年夏ごろから、房総地区全体に投入し、千葉以東・以南の総武本線・成田線・東金線・内房線・外房線の各線に運用範囲を広げます。
なお、創作非容易性の判断の参考文献として、GV-E400系電気式気動車の前面、719系「フルーティアふくしま」、JR東海211系5000代 (参考文献上の表記) などが挙げられていました。
500番台 (相模線用) (意匠登録第1697021号)

図2 E131系500番台 (相模線用)
500番台は、相模線用 (橋本~茅ケ崎間) の形態です。全体的な形状は0番台をベースとしていながら、前面の外縁を濃い青色とし、ドットパターンについても、濃い青と白色のドットを、波を描くように配置している点が特徴です。これは、湘南の海をイメージしているとされています。
こちらは、2021年5月13日に意匠登録出願、同年6月17日にプレスリリースで公表、2021年9月24日に意匠登録、同年10月11日に意匠公報が発行されています。
こちらは、少なくとも0番台との類似を理由とする拒絶を受けることなく、そのまま意匠登録されています。このことから、審査上は0番台とは非類似として扱われたものと考えられます。
600番台 (宇都宮線・日光線用) (意匠登録第1697050号)

図3 E131系600番台 (宇都宮線・日光線用)
600番台は、栃木県内の宇都宮線 (小山~黒磯間)、日光線 (宇都宮~日光間) に投入された形態です。全体的には0番台の色違いといった感じで、ドットパターンが黄色と茶色のツートンとなっています。日光の社寺や宇都宮の火焔太鼓の山車をイメージしたとされています。茶色をベースとして落ち着いた印象を与えつつも、黄色でメリハリを利かせている印象を受けます。
こちらは、0番台と類似する意匠として、0番台を基礎意匠とする関連意匠として出願されています。
2021年5月21日に意匠登録出願、同年6月17日にプレスリリースで公表、同年9月24日に意匠登録、同年10月11日に意匠公報が発行されています。
1000番台 (鶴見線用) (意匠登録第1766191号)

図4 E131系1000番台 (鶴見線用)
1000番台は、鶴見線用 (鶴見~海芝浦・大川・扇町間) に投入された形態です。こちらは、鶴見線の路線環境に対応するため、車体の幅をやや狭くしています。このため、下から上までストレートな車体となっています。また、前面の貫通扉周りの造形もやや0番台とは異なっています。
1000番台以降は、「電車おもちゃ」でも意匠登録 (意匠登録1759930号) を受けています。
こちらは、車体がストレートになり、前面の外縁も青色となり、やや印象が異なっています。ドットパターンは、歴代の鶴見線の車両をイメージした黄色と茶色で、0番台とほぼ同様の配置となっています。
2023年7月3日に意匠登録出願、同年7月24日にプレスリリースで公表、2024年3月12日に意匠登録、同年3月21日に意匠公報発行となっています。
ここで、出願経過情報を見ると、2023年12月5日付で拒絶理由通知がなされています。拒絶理由は、先行の公知意匠 (E131系0番台) に類似するため、とされています (意匠法第3条1項3号)。つまり、0番台の意匠と類似すると判断されたのです。
なお、同通知には、下記のように記載されています。
「この意匠登録出願の意匠と引用意匠を観察すると、主に (1) 本願意匠は車体の左側面視左右下部の輪郭線が直線的であるのに対し、引用意匠はそれに対応する部分が左側面視中央方向に若干湾曲している点、(2) 連結器の構造、スカート(補助排障器)の形状、(3) 左側面視左右上部に設けられたライトの形状及び配置、(4) 色彩等で若干の相違は確認できますが、その余の車体のフレーム構成、模様の構成配置、ドアや窓の配置、フロント部の構成からなる基本的構成態様が顕著に共通します。
(1) ないし (4) の相違点はいずれも極めて部分的な相違に止まり、これらの相違点はいずれも意匠全体として見た場合、両意匠の共通する美感を変更するほどのものではありませんので、本願意匠は引用意匠に類似しています。」
さらに、同通知では、関連意匠の意匠登録出願に補正すれば、この拒絶理由が解消すると示唆しています。
これを受けて、この1000番台の意匠は、0番台の意匠を基礎意匠とする関連意匠として補正することにより、意匠登録を受けることができたのです。
ここで、なぜ、1000番台が0番台と類似すると判断されたかが疑問となります。先の相模線の500番台は形状がほぼ同一である一方、色彩とドットパターンが相違しており、0番台の関連意匠とはされずに登録されています。この違いには、特徴的なドットパターンの印象の差異が影響した可能性があると考えられます。
つまり、意匠の類否は、「需要者の視覚を通じた美感」を基準に判断するという観点から、特徴的なドットパターンの印象の差異がポイントとなったと考えられます。
500番台については小さめのドットを、波を描くように配置しているのに対し、1000番台は0番台とほぼ同じ配置です。需要者から見れば、このドットパターンが視覚を通じた美感に影響していると考えられます。
800番台 (仙石線用) (意匠登録第1792649号)

図5 E131系800番台 (仙石線用)
800番台は、仙台地区の仙石線 (仙台~石巻間) に投入された形態です。前面は完全非貫通の形態とされ、これまでのE131系とは大きく印象が異なっています。ドットパターンも青の濃淡で左右がつながるように配置されています。
2024年9月11日に意匠登録出願、同年12月24日にプレスリリースで公表、2025年2月25日に意匠登録、同年3月5日に公報発行、となっています。
「電車おもちゃ」の意匠も同日に出願され、2025年5月13日に意匠登録を受けています (意匠登録第1799119号)。
200番台 (中央本線・長野地区用) (意匠登録第1836373号)

図6 E131系200番台 (中央本線・長野地区用)
200番台は、中央本線・篠ノ井線・信越本線 (高尾~塩尻~長野間) に投入された形態です。こちらは、0番台をベースとしながらも、ドットパターンは、従来の車両と同様の長野色 (薄い青、薄い青緑、白色) のドットを山々の形になるように配置しています。
2025年12月8日に意匠登録出願、2026年5月7日にプレスリリースで公表、2026年9月14日に意匠登録、同年9月25日に公報発行、となっています。
ここで、出願経過情報を見ると、2026年7月14日付で拒絶理由通知がなされています。拒絶理由は、先行の公知意匠 (E131系500番台、E131系800番台) に類似するため、とされています (意匠法第3条1項3号)。つまり、相模線用の500番台の意匠と仙石線用の800番台の意匠に類似すると判断されたのです。
こちらについては、この200番台の意匠は、500番台の意匠を基礎意匠とする関連意匠として補正し、意見書で800番台とは類似していないと主張することにより、意匠登録を受けることができたのです。
こちらについては、別記事で詳しく取り上げたいと思います。
「電車おもちゃ」の意匠も同日に出願され、2026年7月28日に登録を受けています (意匠登録第1832994号)。
まとめ
このように、E131系の意匠登録を見てみると、それぞれの類否関係を見ることができます。以下の図に示すように、基本となる房総地区用の0番台に対し、宇都宮線・日光線用の600番台と、鶴見線用の1000番台が類似しており、関連意匠として意匠登録を受けています。
また、長野地区用の200番台については、相模線用の500番台と仙石線用の800番台と類似しているとの拒絶理由を受けましたが、500番台を基礎意匠とする関連意匠とし、800番台とは類似していない旨を意見書で主張することで意匠登録を受けています。
反面、相模線の500番台と仙石線の800番台は、少なくとも0番台の関連意匠とはされず、それぞれ独立した意匠として登録されています。
この関係図を、下の図に示します。

図7 出願当初のそれぞれの意匠の関係

図8 意匠登録時のそれぞれの意匠の関係
この事例からは、車体の形状が異なるかどうかだけではなく、模様の構成や配置を含めた意匠全体が需要者にどのような美感を与えるかによって、類否が判断されることがうかがえます。
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