「はやぶさ」は北へ、「さくら」は南へ ― 新幹線開業にともなう商標トレード劇

商標とブランドの話

※ アイキャッチ画像は、ブルートレイン時代の末期に「さくら」と「はやぶさ」が併結運転されていた時のヘッドマークです。

はじめに

 「はやぶさ」といえば東北新幹線、「さくら」「みずほ」といえば山陽・九州新幹線の愛称として親しまれています。

 かつては、「はやぶさ」「さくら」「みずほ」はともに、東京と九州を結ぶ寝台特急 (ブルートレイン) の愛称として長らく親しまれてきました。

 これらの愛称は、2011年3月5日の東北新幹線で新型車両E5系のデビューと、2011年3月12日の九州新幹線博多~鹿児島中央の全線開通にともない復活することになりました。

 これに際し、「はやぶさ」と「さくら」「みずほ」の愛称をめぐって、商標登録のトレードも行われました。今回は、この新幹線開業に伴う商標登録のトレード劇について見ていきます。

 列車愛称と商標登録については、こちらのブログでも触れていますので、併せてご覧いただけますと幸いです。

「はやぶさ」「さくら」「みずほ」について

「はやぶさ」について

 現在の新幹線「はやぶさ」の前身は、東京~西鹿児島 (現在の鹿児島中央) を結んでいた寝台特急でした。東京から西鹿児島まで1500kmあまりを約21時間かけて結ぶ、日本を代表する長距離列車でした。

 1987年4月1日の国鉄分割民営化を経て、1997年11月29日に東京~熊本までに短縮された後、2009年3月14日に惜しまれながら廃止となりました。

図1 寝台特急時代の「はやぶさ」

 その後、2011年3月5日、東北新幹線に新型車両E5系を導入するのに際し、列車名として「はやぶさ」の愛称が復活することになりました。当初は最高速度300km/hで営業運転を開始し、2013年3月16日から320km/h運転が開始されました。

 JR東日本によると、「はやぶさ」とする理由は、「スピード感があり親しみやすい愛称であるため。」とされています。

 当時、鹿児島方面のイメージが強かった「はやぶさ」が、東北・青森方面を走ることに意外な感じもしましたが、次第にE5系のイメージと共に定着したと感じられます。

 なお、「はやぶさ」の愛称については、1992年10月2日付でJR九州が商標登録出願をし、後に商標登録されています (登録第3125407号)。JR九州の列車愛称の商標登録は、往年のヘッドマークの図案を商標として登録しており、「はやぶさ」もブルートレイン時代のヘッドマークで登録されています。

「さくら」「みずほ」について

 「さくら」は東京~長崎・佐世保、「みずほ」は東京~熊本・長崎を結ぶ寝台特急でした。こちらも、「はやぶさ」とともに九州方面のブルートレインとして親しまれていました。

 同じく分割民営化を経た後、「みずほ」は1994年12月3日に廃止されました。「さくら」については2005年3月1日に廃止となりました。

 その後、2011年3月12日の九州新幹線博多~鹿児島中央の開業とそれに伴う新大阪~鹿児島中央への直通運転開始に伴い、「さくら」と「みずほ」の愛称が復活することになりました。「みずほ」の愛称は速達便の列車に使用されることとなりました。

 「さくら」は愛称公募で最多応募列車名として選ばれました。「みずほ」については「実り豊かな瑞穂国を表し、山陽・九州新幹線の直通運転を通じて豊かな実りを提供する」旨の意味が込めて名付けられたとされています。

 「さくら」「みずほ」の愛称はともに1992年9月18日付でJR東日本が商標登録出願をし、後に商標登録されています (登録第3027392号、登録第3000902号)。

商標登録のトレード劇

 このように、「はやぶさ」はJR九州の登録商標、「さくら」「みずほ」はJR東日本の登録商標でした。これらの愛称は伝統的な列車として長らく親しまれていました。

 これらの列車が廃止された後も、それぞれの商標権は維持されていました。長年使用された列車愛称には、それ自体に大きなブランド価値が蓄積されていたと考えられます。

 2010年から2011年にかけて、JR東日本とJR九州に、それぞれ新幹線開業という大きな出来事が起こります。

 2010年12月4日に東北新幹線の八戸~新青森間が開業し、東北新幹線が全線開業しました。続いて2011年3月5日には、新型車両E5系による「はやぶさ」の運転が開始されました。

図2 E5系新幹線

 一方、2011年3月12日には九州新幹線博多~新八代開業にともない、新大阪~鹿児島中央間の直通運転が開始されました。

 これらの出来事に際し、JR東日本は新型車両とスピードアップを象徴する列車愛称として「はやぶさ」を使用することを発表しました。

 一方、JR九州とJR西日本は、直通運転開始にともない新たな列車愛称として「さくら」「みずほ」を使用することを発表しました。

 しかし、「はやぶさ」はJR九州の商標登録であり、「さくら」「みずほ」はJR東日本の商標登録でした。このため、お互いに商標権を移転することになりました。

図3 「みずほ」の愛称表示

 「はやぶさ」の商標権 (登録第3125407号) の経過情報をJ-PlatPatで見ると、2011年5月31日付で商標権の移転を申請し、同年6月24日に商標登録の移転が登録されています。

 「さくら」「みずほ」の商標権 (登録第3027392号、登録第3000902号) についても同様に、2011年6月15日付で商標権の移転を申請し、同年7月8日に移転が登録されています。

 新幹線開業と列車名の復活の裏で、このような商標登録の大型トレードが行われていたのです。

図4 「さくら」の愛称表示

結び

 列車の愛称は、輸送サービスだけでなく地域と結びついて大きな信用・価値が蓄積されています。特に、「さくら」「はやぶさ」「みずほ」については往年の看板列車であり、ブルートレインの象徴的な存在でもありました。

 これらの列車も時代と共に一旦幕を下ろすことになりましたが、新幹線として晴れて再生することとなりました。この再生の裏で、商標登録の大型トレードがあったことも、日本の鉄道を象徴する愛称であることを表しています。

 列車自体は時代の流れの中で廃止されても、その愛称に蓄積されたブランド価値まで消えるとは限りません。「はやぶさ」「さくら」「みずほ」の商標権の移転は、列車名もまた、長い年月をかけて育てられる知的財産の一つであることを示しているように思います。

 車両が変わり、走る地域が変わっても、商標登録という「魂」は受け継がれていくのだと思いました。

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