はじめに
主な知的財産権の存続期間については、知財関係の参考書だけでなく、「ITパスポート」の参考書や高校生の「情報」の教科書などにも記載されています。
そこには、以下のように書いてあるはずです。
ここで、「なぜ、商標は『登録』から、となっているのに、特許・実用新案・意匠は『出願』からなのだろうか?」という疑問を持つ方がいらっしゃるかと思います。
今回は、このことについて見ていきます。
権利が発生するのは「登録」から
特許や意匠、商標については、特許庁に出願し、原則として審査を経た後に登録されます。そして、登録によって権利が発生します。
なお、実用新案については、特許庁に出願すると、願書の記載等の形式的な審査がされるだけで、考案の内容は審査されずに登録されます。登録によって権利が発生します。
特許権についても、権利が登録によって発生するのであれば、その登録の日から20年間とする方が自然にも思えます。
このことから、商標権の「登録」から10年というのは理解できるかと思います。
しかし、残り3つの特許、実用新案、意匠については「出願」からカウントしています。つまり、特許庁での審査の期間の分も権利の期間に含まれるため、全体としての権利の期間が短くなってしまいます。

図1 特許と商標の存続期間の違い
例えば、単純化して考えると、出願から設定登録まで5年かかった場合、登録後に残された期間は15年となります。(※実際には、一定以上の審査遅延について存続期間を延長する制度があります。)
なぜ、特許の権利期間は「出願」からカウントするのでしょうか?
「出願」からカウントする理由
現在の制度が出願日を基準としている背景には、国際的な制度調和や、権利期間の予測可能性、過度に長期間にわたる独占を防ぐという考え方があります。
国際的なルールとの整合
TRIPS協定 (知的財産権の貿易関連の側面に関する協定) の第33条に、「保護の期間は、出願の日から20年の期間が経過する前に終了してはならない。」と規定されています。現在の日本の特許法も、出願の日から20年をもって存続期間が終了することを原則としています。
TRIPS協定とは、1995年のWTO (世界貿易機関) の発足に伴い、発効されました。TRIPS協定により、知的財産権の保護の最低基準や、各国の義務が定められています。これは、知的財産権の保護が不十分な国があると、海賊版や模倣品が横行し、正当な貿易が妨げられてしまうためです。
TRIPS協定は、弁理士試験の短答式試験でも出題対象となっている重要な条約です。
発明を過度に長く独占させないため
出願から長期間が経過して社会に技術が広く利用されるようになった後まで、さらに長期間の独占を認めると、第三者による技術利用を過度に制約することになります。
ジェームズ・ワットの蒸気機関特許についても、その長期の独占が後続の技術改良を妨げたのではないか、という議論があります。
サブマリン特許の防止
サブマリン特許とは、特許を出願した後、意図的に審査を長引かせて公開せずに、第三者がその技術を製品化して市場に普及したタイミングで突如として特許を成立させ、巨額のライセンス料や賠償金を請求する特許のことです。
海中から突然浮上して敵を攻撃する潜水艦 (サブマリン) になぞらえてこのように呼ばれています。
これは、1980年代から90年代にかけて、主に米国で大きな社会問題になりました。当時の米国では、現在のような出願後一定期間での原則公開制度がなく、特許が成立するまで第三者から出願内容が見えない場合がありました。つまり、第三者は登録されるまでその発明の内容どころか、その発明の存在すら知らないことになります。
また、当時の米国の特許の存続期間は「登録から17年」でした。つまり、審査を長引かせて審査を10年かけたとすると、出願から少なくとも10年は公開されないため、第三者が知らずに発明をしてしまいます。いわゆる、二重研究・二重投資になります。
何も知らない第三者がサブマリン特許を知らずに発明をして、いざ市場に出した時に、サブマリン特許が登録されたとすると、その後、長期間にわたり特許権による制約を受ける可能性がありました。
出願日起算への変更は、GATT・TRIPSを背景とした国際的な制度調和によるものでしたが、その結果として、出願を長期間係属させることで特許期間の満了時期を後ろにずらす「サブマリン特許」の問題を抑える効果もありました。
なお、このように存続期間を「出願」からカウントすることでサブマリン特許を防止する方策は、19世紀のドイツで既に行われていたと言われています。
実用新案権の存続期間
特許や意匠、商標では、原則として特許庁による審査を経て設定登録されます。一方、実用新案は実体審査を経ずに登録されます。
実用新案は、特許発明と同様に「考案」という創作物を対象としているため、特許と性質が似ていることから、「出願」からカウントしていると考えることができます。
意匠権の存続期間
では、意匠権についてはどうでしょうか。実は、意匠権については、令和元年の意匠法改正までは「登録から20年」とされていました。つまり、商標と同じく「登録」からカウントしていました。
令和元年改正では、意匠を長期にわたって保護する観点から、存続期間そのものが延長されるとともに、その終期の基準も「設定登録の日から20年」から「出願の日から25年」に変更されました。これにより、現在では特許・実用新案・意匠はいずれも出願日を基準として存続期間の終期を計算する制度となっています。
結び
今回は、なぜ、特許・実用新案・意匠と商標では、存続期間のカウントの時期が異なるのかを見てみました。
特許権そのものは登録によって発生します。しかし、その存続期間の終期については、過度に長い独占を防ぎ、権利の終了時期を予測可能にするとともに、国際的な制度との整合を図るため、出願日を基準として計算する仕組みになっています。
一見、淡々と参考書等に記載されている内容でも、歴史上の経緯からの理由があります。これからも、そんな素朴な疑問を、考察していきたいと思います。
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