はじめに
2026年6月13日土曜日の日本経済新聞の記事で、『はたらく細胞』や『進撃の巨人』などの漫画、また『週刊少年マガジン』などの雑誌で知られる講談社が、インドに現地法人を設立することが報じられました。
講談社・DNP・現地企業は、インド・デリーに合弁会社「Kodansha India」を2026年7月に設立し、講談社の漫画等をインド向け仕様で現地製造・出版する予定です。現地法人は、マーケティング、製造、出版までを一貫して行うとされています。
若年層を中心に人口増加が進むインドでの市場拡大が期待でき、現地に出版社を設けることで、海賊版などに対しても迅速な対応が可能となります。
今回は、現地に法人を構えると、なぜ海賊版に迅速な対応が可能となるのか、ということについて見ていきます。
マンガと知的財産
マンガについては、知的財産権の中では原則、著作権で保護されます。特に、マンガの絵、ストーリー、セリフ、コマ割りなどが著作権で保護されます。
一方、作品名、出版社名、ロゴ、キャラクター名については、商標の問題も生じます。
著作権と商標権の違いは、著作権が「著作者の創作的な思想を表現したもの」を保護するのに対し、商標権は「商標という識別標識に貯まった業務上の信用」を保護する点になります。すなわち、著作権は作品の中身を守るのに対し、商標権は作品や出版元のブランドを守ることになります。
このため、作品の無断複製や無断配信には著作権が問題となり、作品名・出版社名・ロゴ・キャラクター名などが無断で使われる場合には、商標権や不正競争防止の問題も生じ得ます。
現地法人と権利行使
これまでは、講談社は、米国の法人でヒンディー語版のコミックを発行し、それをインドに輸出していました。インドにヒンディー語版の作品を輸出するには、この方式では十分とも思われます。
しかし、インド国内で海賊版や模倣品に対応する場面では、遠隔地からの対応には限界もあります。そこで、現地に拠点を構えることにより、次の五つの点で海賊版への対応が進めやすくなります。
(1) 侵害の発見が早くなる
現地で出版・流通・マーケティングを行っていれば、正規版の販売網、小売店、取次、読者、現地スタッフから、海賊版や模倣品の情報が入りやすくなります。海外から遠隔で監視するよりも、「どこで、どのように、どの価格帯で、どの作品が無断流通しているか」を把握しやすい、という実務上の利点があります。
(2) 証拠収集がしやすくなる
訴訟や差止めでは、「その国で侵害品が流通していること」「正規品と混同されること」「権利者または正規事業者に損害が生じていること」などを示す必要があります。現地法人があれば、購入調査、流通経路の確認、販売実態の記録、現地法律事務所との連携がしやすくなります。
(3) 差止や削除要請が、現地で動かしやすくなる
インドでは、オンライン海賊版への対応として、デリー高裁がジョン・ドウ命令や動的差止命令を活用します。特に動的差止命令は、ミラーサイト等に対して既存の差止命令を拡張でき、権利者の時間と費用の節約に寄与するとされています。
つまり、現地拠点があることで、こうした手続を検討・実行するための体制を整えやすくなるのです。
(4) 商標権の面でも有利になる
漫画ビジネスでは、著作権だけでなく、出版社名、作品名、レーベル名、キャラクター名、ロゴなどがブランドとして機能します。インドでは第三者の類似商標登録を放置すると、早急に使用差止めをしたい場合でも支障が出る可能性があるため、商標ウォッチングや異議申立てが重要とされています。
つまり、現地法人は海賊版対策だけでなく、ブランド防衛の前線基地にもなるのです。
(5) 緊急の差止めを検討しやすくなる
海外で海賊版が流通した場合、日本の本社から現地の裁判所に対応することも不可能ではありません。しかし、実際には、現地での証拠収集、現地法律事務所との連携、必要書類の準備、翻訳や認証などに時間を要することがあります。
その間に、海賊版が短期間で売り抜けられたり、オンライン上の侵害サイトが別のURLに移転したりするおそれもあります。
これに対し、インド国内に現地法人があれば、現地の販売状況や侵害状況を把握しやすくなり、現地弁護士とも連携しやすくなります。また、正規の出版・販売主体として、海賊版による被害を具体的に説明しやすくなる場合もあります。
したがって、現地法人の設立は、単に本を売るための拠点を置くというだけでなく、海賊版に対する警告、削除要請、差止めの申立てなどを、より迅速に検討するための体制づくりという意味も持ちます。
結び
現在、日本ではマンガやアニメなどのコンテンツビジネスが盛んであり、海外展開の重要な分野としても注目されています。一方で、コンテンツを海外に展開する際には、海賊版への対応を避けて通ることはできません。
今回、講談社はインドに現地法人を設けることにより、単に現地で本を出版・販売するだけでなく、正規版の流通を広げ、ブランドを保護し、海賊版対策を進めるための現地拠点を構えることにもつながります。
マンガやアニメの海外展開を見るときには、「どの国で売るか」だけでなく、「その国でどのように権利を守るか」という知的財産の視点も重要になります。
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