はじめに
2026年6月9日火曜日、JR東日本は、夜行運転に対応する特急列車「ルナ・アズール」についてプレスリリースで発表しました。
(出典:JR東日本プレスリリース「夜行運転に対応する特急列車により新たな乗車体験を提案します」)
「ルナ・アズール」は、現行の特急「ひたち」「ときわ」に使用しているE657系特急型車両を改造し、東北方面への夜行運行を想定した新たな特急列車です。JR東日本は、ルナ・アズールに関して、意匠登録出願と商標登録出願をしております。こちらについては、以前のブログで取り上げました。
(「JR東日本の新たな夜行特急『ルナ・アズール』に見る意匠登録の世界」、「『ルナ・アズール』が商標登録出願をした理由を考察する」)
商標については、特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」で、「ルナ・アズール」という文字商標の出願 (商願2026-064135) と、「Luna Azul」という図形商標 (ロゴマーク) の出願 (商願2026-064136) の2件が商標登録出願されていることが確認できます。
今回は、「ルナ・アズール」の商標登録出願について、なぜ文字商標と図形商標 (ロゴマーク) をそれぞれ出願したのかを考察します。
文字商標と図形商標をそれぞれ出願した理由
文字商標と図形商標をそれぞれ出願した理由は、「名称とロゴのそれぞれについて権利を確保し、ブランドを多面的に保護するため」と考えられます。
では、文字商標、図形商標の片方しか商標登録を受けなかった場合は、どのような不都合が生じるのでしょうか?
文字商標のみ商標登録を受けた場合
文字商標は、最も汎用性を持つ商標権となり得ます。文字商標として登録しておけば、特定のロゴデザインに限定されず、「ルナ・アズール」という名称を中心として広くブランドを保護しやすくなります。
他社が全く違うデザイン(ロゴマーク)を使用していても、指定商品・役務との関係で「ルナ・アズール」という名称を商標として使用していれば、商標権の効力が及ぶ可能性があります。また、「Luna Azul」のように、同じ称呼を生じると考えられる表示についても、商標が類似すると判断されれば商標権の効力が及ぶ可能性があります。
しかし、文字商標だけでは、他社が「ルナ・アズール」という文字・名称を使わずに、似ているロゴマークやデザインを使用した場合に、権利侵害を主張することが難しくなります。
また、名称は全く違っても、似たようなイメージを連想させるような名称を使用している場合にも、権利侵害を主張することが難しくなります。
すなわち、文字商標のみでは、「ルナ・アズール」やそれに似た名称を用いずに、ロゴや別の名称を用いている相手に対しては権利の主張が困難になるという弱点があります。
図形商標 (ロゴマーク) のみ商標登録を受けた場合
図形商標には、シンボルマークのほか、文字を特徴的にデザインしたロゴなどもあります。こうした商標では、その具体的な視覚的構成を中心として保護を受けることができます。
他社が「ルナ・ライナー」などの「ルナ・アズール」とは違う名称を名乗っていても、指定商品・役務との関係で、そのロゴが登録商標と類似すると判断されれば、商標権の効力が及ぶ可能性があります。
しかし、図形商標のみでは、「ルナ・アズール」という名称の使用そのものに対して、権利の侵害を主張することが難しくなります。例えば、「ルナ・アズール」という名称に対して全く別のロゴマークを使用していた場合に該当します。
文字と図形を結合した商標について商標登録を受けた場合
「ルナ・アズール」については文字商標と図形商標のそれぞれについて2つの商標登録出願をしています。このため、2つの出願に対する費用がかかる上、商標権を取得した場合は2つの権利を管理することになります。
なお、商標は、1つの出願に対して1つの商標のみ出願するという一商標一出願の原則があります。
では、文字と図形を結合して1つの商標として商標登録を受けた場合はどうなるでしょうか。
文字とロゴを組み合わせて登録した場合、第三者がその一部分だけを使用したときには、結合商標との類否判断が必要となり、文字商標・ロゴ商標を個別に登録している場合に比べて権利関係が複雑になることがあります。
また、文字と図形を組み合わせて使用していない場合、不使用取消審判を請求されてしまうリスクもあります。もっとも、登録商標と全く同一の態様で使用していなくても、「社会通念上同一」と認められる商標の使用であれば不使用取消を免れる場合があります。したがって、文字部分のみの使用が直ちに不使用になるわけではありません。
更に、途中でロゴを大幅に変更した場合には、新しいロゴについて改めて商標登録出願を検討する必要が生じます。
それぞれの出願態様による比較
以下の表にそれぞれの強みと弱点をまとめます。
| 名称そのものを守る 汎用性がある | 名称を使用せずにロゴやイメージのみを使用した場合に権利行使が困難 | |
| ロゴの使用に対して権利行使ができる | ロゴを変えて、似たような名称が使用された場合に権利行使が困難 | |
| 文字とロゴを1つの出願・1つの権利にできる | 登録態様と実際の使用態様が大きく異なる場合に不使用取消の問題が生じ得る ロゴの変更時に対応困難 |
つまり、文字商標とロゴ商標を別々に取得することは、同じブランドを二重に登録するというより、ブランドを構成する別々の要素をそれぞれ保護する考え方といえます。
結び
「ルナ・アズール」については、文字商標と図形商標の両方に対して商標権を取得することにより、名称とデザインを別々の権利として持つことで、ブランドの使われ方の変化にも対応しやすくなります。
身近な商標についても、文字・図形の他、音や色彩についても商標権を得ている例も見られます。身の回りの商標を見て、どのようにブランドが守られているのかを考察するのも面白いかもしれません。
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