はじめに
「ひかり」「こだま」「あずさ」「さくら」…。おなじみの新幹線や特急列車の名前は、JR各社によって商標登録されています。J-PlatPatで「東日本旅客鉄道株式会社」 (JR東日本) や「東海旅客鉄道株式会社」 (JR東海) の商標を検索すると、多くの列車名が商標登録されていることがわかります。
これらの列車名は、主に「第39類 旅客車による輸送」を指定商品・役務として登録されています。一方、出願日を見ると、列車名の多くが1992年9月下旬に一斉に商標登録出願されていることがわかります。このことが、いったい何を表しているのでしょうか?
今回は、列車名が一斉に商標登録出願された背景について考察してみます。
サービスマーク制度の開始
1992年は、商標制度において、サービスマーク制度が導入されました。すなわち、商標をサービス (役務) に使用する場合でも商標登録を受けられるようになりました。
これにより、「旅客車による輸送」などの役務についても商標登録を受けられるようになりました。従って、1992年9月下旬に、JR各社は既存の列車名について一斉に商標登録出願を行ったと考えられます。
列車名を商標登録することにより、第三者が同一又は類似の名称を交通・旅行関連のサービスに使用し、利用者に誤認・混同を生じさせるおそれを防ぐ目的があったと考えられます。
役務そのものを指定できなかった時代には、ヤマト運輸の「宅急便」のようにサービスに関連して使用される包装資材・伝票・広告物などの商品を指定して、商標登録を受ける工夫が行われていました。
なお、サービスマーク制度は1992年4月から開始されましたが、経過措置として1992年4月1日から半年以内に商標登録出願を行った場合、同日に出願したものとみなす措置が取られました。このことも、1992年9月下旬に一斉に商標登録出願がされた理由だと考えられます。
なぜ、この時期にサービスマーク制度を導入したのか
こう見ると、サービスマーク制度は意外と新しいと思われるかもしれません。では、なぜ、この時期にサービスマーク制度を導入したのでしょうか?
理由の一つとして、従来の商標制度が、主に商品に使用される標識を保護する制度として発展してきたことが挙げられます。しかし、経済のサービス化が進むにつれて、運送、金融、通信、教育、宿泊など、商品ではなくサービスそのものに付される名称やマークの重要性が高まっていきました。
もう一つの理由として、国際的な要請も考えられます。日本は1990年2月20日にニース協定に加入し、1992年4月1日のサービスマーク登録制度導入に合わせて、ニース協定に基づく国際分類を主たる体系として使用するようになりました。
ニース協定は、商標における商品・役務の国際的に共通な分類を定めるための協定です。
つまり、サービスマーク制度の導入は、国内でサービス産業が発展していたことに加え、商標制度を国際的な分類体系に合わせていく流れの中に位置づけられます。
列車名のブランド化
「ひかり」「こだま」等の列車名は国鉄時代から長い時間を掛けて築き上げたブランドです。それらを商標登録することによってブランドを保護し、悪質な模倣を防止することができます。
列車名の中には「さくら」や「あさま」のように、花の名前や地名に由来する列車名もあります。もっとも、それらの言葉が直ちに「旅客車による輸送」という役務の内容そのものを表すとは限りません。列車名として継続的に使用されることで、利用者にとっては特定の鉄道サービスを示す目印、すなわちブランドとして機能するようになります。
結び
列車名が1992年に相次いで商標登録出願された背景には、サービスマーク制度の導入がありました。鉄道会社にとって、列車名は単なる愛称ではなく、輸送サービスを識別するブランドでもあります。
「ひかり」「こだま」「あずさ」「ライラック」といった列車名を見るとき、その背後には、国鉄時代から受け継がれてきたブランドと、1990年代に進んだ商標制度の国際化が重なっているのです。 身近な列車名を調べてみると、商標制度の変化や、サービス業におけるブランド保護の考え方が見えてきます。
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