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AIは特許審査をどう変えるのか ― 特許庁「JPO AIビジョン」を考える

知財あれこれ

※画像はAIで作成したイメージです。実際の特許庁の施設、審査システム等を表すものではありません。

はじめに

 2026年7月28日火曜日の日本経済新聞朝刊に、「AIで特許審査 職員が最終判断 特許庁が活用指針」という記事が掲載されました。

 特許庁によると、特許審査をはじめとする業務に人工知能(AI)を活用し、業務の迅速化や高度化を目指すとのことです。また、審査の最終判断は審査官が実施するという人間中心のAI活用を基本原則の一つとして掲げています。

 今回公表された「JPO AIビジョン」は、AIによる自動的な特許判断を開始するというものではありません。特許庁のさまざまな業務にAIを活用するに当たり、その基本的な考え方やリスク管理の方針を示したものです。

 このことは、何を示すのでしょうか。今回は、この記事の背景や目的について見ていきます。

特許の審査

 特許の審査官による審査では、特許法49条に掲げる拒絶理由に該当しないかどうかを審査します。拒絶理由に該当しない場合、特許査定をすることとなります。審査官が拒絶理由に該当すると判断した場合には、原則として、出願人に拒絶理由を通知し、意見書や補正書を提出する機会を与えます。

 実務上問題となることが多い拒絶理由としては、特許法29条1項に規定する新規性同条2項に規定する進歩性特許法36条に規定する明細書等の記載要件などがあります。

 特に進歩性は、特許審査において中心的な判断事項の一つです。進歩性とは、出願前に知られていた技術に基づいて、その技術分野の通常の知識を有する者が容易に発明できたものではないことをいいます。

 このため、新規性や進歩性の判断の基となる先行技術文献の調査が重要になります。AIの活用範囲は先行技術文献の調査に限られませんが、特許審査では、こうした文献調査の支援が重要な活用場面の一つになると考えられます。

AIによる文献調査の効果

 AIによって先行技術の調査をすることで、審査にはどのような効果が出るのでしょうか。AIの導入によって審査の速度が速くなることも考えられますが、むしろ、文献調査の効率性や網羅性を高め、審査官の審査を支援する効果が期待されます

 AIによって関連性の高い文献を効率的に抽出できれば、審査官は、発明と先行技術との相違点や進歩性の判断に、より多くの時間を割けるようになる可能性があります。その結果、審査の迅速化だけでなく、審査品質や判断の一貫性の向上につながることが期待されます。

 また、特許性に関する判断の精度が高まれば、権利の有効性に対する予見可能性が高まり、将来的には異議申立てや無効審判などの紛争を減らすことにつながる可能性もあります。ただし、これは今後の運用と検証を待つ必要があります。

AIによる調査の限界

 AIが提示した文献が、直ちに拒絶理由の根拠となるわけではありません。

 特許請求の範囲に記載された発明をどのように認定するか、複数の先行技術文献を組み合わせて発明することが当業者にとって容易であったといえるか、明細書の記載が発明を十分に裏付けているかといった判断には、法的・技術的な評価が必要です。

 また、AIには、関連性の低い文献を提示する、重要な文献を見落とす、判断の根拠が分かりにくい検索結果を提示するといったおそれもあります。出願内容には未公開の技術情報も含まれるため、情報管理も重要です。

 このため、AIを審査官に代わる存在ではなく、審査官の調査や判断を支援する道具として位置付け、最終判断を人間が行うという方針には重要な意味があります。

特許庁がAI活用を進める背景

 近年、世界各国で特許出願が増加し、中国語や韓国語を含む外国語の特許文献も大量に蓄積されています。また、AIなどの技術が幅広い分野に浸透し、一つの発明に複数の技術分野が関係する例も増えています

 その結果、審査官が調査すべき文献の量が増えるとともに、発明の内容も高度化・複雑化しています。このような状況が、特許審査へのAI活用を進める背景の一つにあると考えられます。

結び

 特許審査にAIを活用することで、特許要件を満たす発明を、より迅速かつ的確に見極めることが期待されます。ただし、AIが審査官に代わって特許性を判断するのではなく、審査官の調査や判断を支援する道具として活用されることが重要です。

 現代では、知財が産業の発展に重要な役割を果たしています。企業にとって、知財は将来の競争力や収益につながり得る重要な無形資産です。

 折しも、この記事の2日後である2026年7月30日の日本経済新聞朝刊には、「知財の投資額、開示要請」という記事も掲載されました。

 一方では、企業に対して知財への投資内容を明らかにすることが求められ、他方では、特許庁がAIを活用して審査の高度化を進めようとしています。知財を創出し、活用する企業側と、それを審査する行政側の双方で、知財をめぐる情報の質と活用方法が、これまで以上に重視され始めているといえるのではないでしょうか。

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