はじめに
「まるい緑の山手線、まんなか通るは中央線」で始まるCMソングでおなじみのヨドバシカメラ。この曲について、ヨドバシカメラは2015年7月6日に音商標として商標登録出願をし、2017年7月14日付で商標登録を受けています (商標登録:第5963049号)。指定役務として、第35類・第36類の「家電製品の小売サービスやクレジットカード関連サービス」などを指定しています。
ところで、このヨドバシカメラのCMソングは米国のリパブリック讃歌 (The Battle Hymn of the Republic) が原曲となっています。日本では童謡「おたまじゃくしはカエルの子」や「権兵衛さんの赤ちゃん」で知られています。
既に作曲された曲を商標登録できるのでしょうか?著作権との関係はどうなるのでしょうか?今回は、音商標と著作権との関係を見ていきます。
音商標とは
音商標とは、音楽・音声など、人の聴覚によって認識される商標です。日本では2015年4月1日から導入されました。J-PlatPatで音商標を検索すると、音商標の楽譜と音声ファイルが公開されており、楽譜を見ながら登録された音商標の音源を聴くことができます。
音商標としては、CMのジングルなどが数多く登録されています。例えば、久光製薬の「ヒサミツ」のジングルや、「おーいお茶」の掛け声などが音商標として商標登録を受けています。
音商標については特許庁の子供向けのページにも取り上げられています。(「この音、知っている?音も商標になるよ」)
もっとも、音商標についても、商標法第3条第1項に規定される「自他商品・役務の識別力」などの登録要件を満たすとともに、商標法第4条第1項に規定される不登録事由に該当しないことが必要です。
名鉄 (名古屋鉄道) は、パノラマカー以来使用してきたミュージックホーンについて、2016年(平成28年)1月14日に音商標として商標登録出願をしていました。しかし、審査の結果、識別力などの問題から拒絶され、商標登録を受けられませんでした。
(参考記事:名鉄のミュージックホーンの音商標 ― 拒絶理由と識別力)
ヨドバシカメラのCMソングの原曲
ヨドバシカメラのCMソングの原曲は、米国のリパブリック讃歌であることは有名です。この曲のメロディーは1856年頃に作られたとされ、もともとは宗教歌として歌われていました。
その後、1861年に始まった南北戦争では「ジョン・ブラウンの屍」という歌詞で北軍の兵士たちに広まりました。1862年には新たな歌詞が発表され、「リパブリック讃歌」として知られるようになりました。
日本では、明治時代にこの曲が伝わったとされ、後にこのメロディーに乗せて「おたまじゃくしはカエルの子」や「権兵衛さんの赤ちゃん」などの詞がつけられて歌われたと言われています。今でも、「権兵衛さんの赤ちゃん」は童謡として親しまれています。
1979年公開の映画「男はつらいよ 寅次郎春の夢」(第24作) の中でも、米国から来たマイケルさん (マイコーさん) がこの歌を歌ったところ、みんなで「権兵衛さんの赤ちゃん」を大合唱するシーンが印象的でした。
音商標と著作権との関係
ところで、既存の曲を音商標にすることはできるのでしょうか?著作権との関係はどうなるのでしょうか?
商標法上では、他人の著作物ということを理由として商標登録を認めないという規定はありません。しかし、商標権が取れたとしても、商標法第29条により使用が制限されます。
商標法第29条では、登録商標の使用が、商標登録出願前に生じた他人の著作権や著作隣接権と抵触する場合には、その抵触する部分について、その態様による登録商標の使用ができないと規定されており、先行する権利との調整が図られています。
つまり、商標権は取れても、他人の著作権を侵害する形では登録商標を使用できないことになっています。この点については、こちらの特許庁サイトのQ4-5で扱われています。
もっとも、ヨドバシカメラのCMソングの原曲である「リパブリック讃歌」は、既に著作権の保護期間が満了しており、パブリックドメインとなっています。このため、原曲のメロディーを利用すること自体について、原曲の著作権が問題になることはありません。
ただし、ヨドバシカメラのCMソングには独自の歌詞がつけられており、編曲や録音についても別途権利が生じる場合があります。したがって、原曲がパブリックドメインであるからといって、CMソング全体を誰でも自由に利用できるわけではありません。
なお、著作権上の問題がない楽曲であっても、それだけで音商標として登録できるわけではありません。商標登録を受けるためには、その音によって特定の商品やサービスの出所を識別できることが必要です。
結び
音商標については、様々な楽曲や効果音、掛け声などが商標登録を受けています。
中にはヨドバシカメラのように既存の曲をベースにした音商標もありますが、著作権との関係では商標登録を受ける上で拒絶される規定は原則存在せず、商標法第29条で使用に制限がかかる構成となっています。
もっとも、「リパブリック讃歌」を使用したヨドバシカメラのCMソングが商標登録されたとしても、ヨドバシカメラが「リパブリック讃歌」という楽曲そのものを独占することにはなりません。商標権の効力は、登録商標と指定商品・指定役務、さらに具体的な使用態様によって判断されます。
したがって、他人がこのメロディーを普通に歌ったり、演奏したりする行為まで、当然にヨドバシカメラの商標権の侵害となるわけではありません。
特に、メロディーだけが共通する場合に、ヨドバシカメラの登録音商標と類似するかどうかは、登録されている音の具体的な構成などを踏まえて判断する必要があります。
音商標を検索すると、よく聴く音が多数登録されていて、楽譜や音源も公開されているので、調べてみるのも面白いと思います。
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